認知症の高齢者に責任能力が認められず、高齢者自身が責任を負わない場合、誰もその責任を負わないのでしょうか。
家族自身に過失等があった場合
まず、高齢者の家族自身に過失があった場合には、直接的に責任を負うことになります。例えば、家族が高齢者にけしかけて、高齢者がほかの人に暴行をふるったような場合です。家族自身に過失がある場合には、高齢者の家族が直接被害者に対して責任を負います。
家族の監督義務
これに対して、家族自身には、直接の過失がないにもかかわらず、監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情がある場合には、監督義務者として、家族が責任を負うとされています。
まず、民法では、幼児や認知症が進んだ高齢者などの責任無能力者が第三者に損害を負わせたものの、本人は責任能力がなく、損害賠償責任を負わない場合、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者(親権者や後見人等)は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う場合があることを定めています。
そのうえで、親権者や後見人等の責任無能力者を監督する法定の義務を負う者ではないにもかかわらず、責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし、第三者に対する加害行為の防止に向けて、その者が責任無能力者の監督を現に行い、その態様が単なる事実上の監督を超えているなど、その監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には、法定の監督義務者に準ずべき者として、民法714条第1項が類推適用され、責任を負うと判示する最高裁判例が存在します。
最高裁の判断に従えば、同居しており、高齢者に暴力的な性向があると家族が認識し、過去にもトラブルを同じようなトラブルを起こしていた場合には、責任が認められる傾向が高いと思われます。認知症患者等と同居している場合には、積極的に介護サービスを利用し、医師や介護福祉士等の専門家の意見に耳を傾けて適切な介護をしていくことが必要であると思われます。