高齢者にみられるうつでは、他の年齢層とは異なる特徴があります。高齢者においては、加齢に伴う心身機能低下、社会的な役割喪失への不安が生じてきます。そのような状況のもとで、心理的には、心身機能の低下と孤独を受け入れられないことが発症に関わってくることが多く見られます。
また、心と体は連動しており、分かちがたく結びついていることが重要です。高齢者では特にこの結びつきが強く、心と身体を別々に治療しようとしても、なかなかうまくいかないことが多いです。たとえば、脳卒中後片麻痺を生じた症例においてうつ病併発によりリハビリテーションの意欲がなくなり運動能力の回復が遅れることがあります。一方で回復の遅れが患者さんの不安を引きおこし、うつを悪化させることにもつながります。高齢者ではうつと身体機能の回復を同時に並行して進めていく必要性があります。
高齢者では、うつと生活習慣病との関連も重要です。高齢者うつ病・うつ状態のリスクとして、喫煙、拡張期血圧、肥満、高血圧、糖尿病などの生活習慣病の存在が知られています。高齢者においてうつを予防するためには、生活習慣病に対する身体管理への意識を高めることも重要です。また、身体機能の問題に関連して、服薬の影響も重要です。
高齢者うつと認知症
認知症とうつは合併することも多く、認知症の前触れとして、うつが現れる場合もあります。一方で、うつが現れると、考えるのが億劫になり、集中できなくなって、見かけ上、認知症のようにみえることもあります。うつによる見かけの認知症であれば、うつを治療することで、日常生活機能の改善が期待できます。疑いがあれば専門医のもとへの受診が望まれます。